知人男性と二人、御茶ノ水駅聖橋口から駅前高層ビルの一つ「サクラテラス」の脇を桜公園まで下り、大通りをはさんだ神田須田町へと向かった。この間、わずか5分。ごくごく新しい抜け道だ。
神田須田町の小路の先、そこは東京大空襲の戦火も免れ、戦前の風景がいまも色濃く残る一帯。    かの池波正太郎氏がこよなく愛した界隈だ。蕎麦の名店二軒、神田藪蕎麦も神田まつやも目と鼻の先にあり、江戸期からのあんこうの「いせ源」、明治期からの鳥すきの「ぼたん」など変わらぬ姿で居並び、食通たちが足繁く通う。そうしてこの一画に池波氏も贔屓の「竹むら」がある。

ごくごく目立たぬ佇まいだが、この15時過ぎでも老若男女、客の列が絶えない。玄関の引き戸には「おしるこ」「ぜんざい」「揚げまんじゅう」の控え目な貼り紙が架かり、、心弾む。
1930年~という店舗は現在、東京都の歴史的建造物の選定ともなっており、その風情も格別だ。

『おとこの和菓子』~みちくさ〝あん〟ぎゃ。スタートはやはりココかなと、迷わず決めた。
東京の和菓子屋らしい佇まいであると池波氏がエッセイに幾度となく登場させたからもあった。
『散歩のとき何か食べたくなって』や『おとこの食卓』など、幾度も読み返した食通の先達だ。

まずは桜の塩漬けを浮かせた一品から。「桜湯」だ。わずかに塩味が効いた白湯は、目にも胃にも優しい。

そうして待つこと10分余り、、さあ、お待ちかね!!「あわぜんざい」(880円)がそろりと到着した。 
すぐには口に運ばない。そう、かつての大失敗の痛さを思い出す。なにしろ口中、火傷を負ってしまった。
さすがに学習効果。箸で少しづつ切り分け急がない。まずはフー、フーから。あの教訓はもう40年前か。
なめらかこしあんは甘さ控えめ。そうそう、途中からほどよい甘さの旨味へ。中からは、粟の黄金が!!
合間に、付け合わせのしその実漬けに向かう。ミョウバン漬けだろうか、塩味もほどよく、味わい深い。
三分の一ほど進んだら緑茶を挟み、しばし瞑想。そして、再び粟ぜんざいだ。手間暇かけた一品とそれを引き立たせる脇役たち。桜茶やしその実漬けと緑茶。〆て880円也。変わらぬ味ともてなしを堪能した。

粟ぜんざい」といえば都内や神奈川、埼玉にも老舗や評判店にもあり、訪ねて行くこともある。
中でも浅草『梅園』(1854年安政元年創業)といえば元祖粟ぜんざいの店としてよく知られる。
かなり以前、そう、まだ50代前後に幾度か訪ねた店だが、当時「豆かん」ばかりを注文した記憶しかない。ずいぶん惜しいことをしたものだ。近々また訪ねよう!もちろん粟ぜんざいだ!!

「あなたの記憶に残る和菓子は?」、こんなアンケート調査が新聞に載った。計2511人回答。
全国和菓子協会ホームページをもとに、専門店、スーパー、コンビニなどで取り扱うものを参考に、  計51項目からの和菓子ランキングだという(朝日新聞 2025.3.22)。
上位ランクは、第一位:おはぎ(ぼたもち、と呼ぶ地域も)、第二位たいやき第三位:桜餅、以下、⑷大福、⑸かしわ餅とカステラ(同率)、以下、⑺草餅(よもぎ餅)、⑻どら焼き、⑼ようかん、⑽みたらし団子、と続く。個人的には⑿きんつば⒃最中、⒄栗きんとんを繰り上げたいが。

それぞれ、どれが記憶に残っているかは、やはり嗜好品のため個人差もかなり大きいはずだ。
加えてそれぞれの生まれ故郷や生い立ちの食生活や食文化、また伝統文化によっても異なろう。
あくまで一つの指標ということになるが、この話を持ち掛けた同世代の男たち=シニア年代=では意外や意外、興味津々のテーマとなって大いに盛り上がった。否、その後の個人リサーチにおいて、シニア世代の〝おとこ〟達にとって実に興味深いテーマであることも、また強く感じた。

こんな流れから、『おとこ  和菓子~みちくさ〝あん〟ぎゃ のスタートとなった。

時々だが仕事や用事で向かった先で和菓子を調べ、探し、買い食いを小趣味としてきた。
単なる餡子フリーク、小豆ファンの勝手な食べ歩きの小文だが、全国の多くの地域で和菓子屋の継承が難しく、厳しく、急速に減少していく現状をなんとか食い止められないものか。ささやかな実体験を通してだがそのリアルをお伝えできれば。何より和菓子の魅力をお届けできれば。そして同好の〝あん〟友と少しでも共有できれば。そんな受発信できればと。

     

追記

『 なんと!〝アズキ栽培〟は日本発祥だった!!』(2025.6.18朝日夕刊の記事)
アズキ栽培の起源は縄文時代の日本だったと、茨城県つくば市の農研機構と台湾大学の研究チームの ゲノム解析でわかった、とのニュース。中国のアズキとは明確に異なる、と。
「野生種の日本のヤブツルアズキから栽培アズキが日本で生まれ、それが中国へもたらされたという 研究発表だ。栽培アズキはより赤いのが特徴で、種子が赤くなる遺伝子の突然変異の頻度を調べたところ約1万3千年前から増え始めていた。この頃から人間が選別を行うようになったと考えられ、アズキの初期的な栽培が約1万年前には始まった可能性がある」という。

興味深い研究発表!
小豆がいっそう愛おしく、餡子がさらに恋しく、和菓子がいっそう愛おしい存在となる情報。
願わくばより広く、より深く認知されてほしいもの。その一石にこのコラムがなれればとも。

(つづく)

庵 日和(いおり びより)
編集者 裏まち裏通り旅人(りょにん)
北国の小さな城下町生まれ。
ラジオ・テレビ、WEBサイト等で
企画・制作・広報PRを手掛ける。
歩く・見る・浸かる・食べるを趣味
に、小さな物語を採集、編集。

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