日常の景色から意味を剥ぎ取った時、そこには純粋な「静けさ」だけが残る(作品:石田宗一郎)


12月、急加速する世界で失う「自分の時間」

カレンダーが最後の一枚になると、街も、人の心も、急に速度を上げ始めます。なぜ、いつも月と同じようにならないのか、そういう自分もなぜかせわしないです。

仕事の締め切り、忘年会の調整(私は減らしました)、新年に向けた準備。スマートフォンにはなぜかいつも月より多めに通知が届き、私たちの頭の中は「やらなければならないこと(ToDo)」で埋め尽くされます。

物理的な時間は、誰にとっても平等に24時間しかありません。どれだけ効率化しても、12月の忙しさを物理的に減らすことは難しいでしょう。

けれど、「時間の質」を変えることはできます。 外の世界がどれだけ騒がしくても、自宅の中にだけは、時間の流れが止まったような場所を作る。

今月は、アートをただの鑑賞物としてではなく、「荒れた時間を整えるためのスイッチ(装置)」として使う方法をご提案します。

アートは「時間スイッチ」:視覚でノイズを遮断する

帰宅してソファに座っても、頭の中ではまだ仕事のメールやSNSのタイムラインが回っていることはありませんか? 現代人は「視覚」からの情報過多(ノイズ)にさらされ続けており、目を閉じるだけではスイッチが切れない状態になっています。

そこで必要なのが、「強制的に意識のチャンネルを変える視覚情報」です。

部屋に飾られた一枚のアートは、動くことも、通知音を鳴らすこともありません。ただそこに在り続けます。 その「動かないもの」を意識的に見つめることで、私たちの脳は「情報の波(フロー)」から「静止した時間(ストック)」へとチャンネルを切り替えることができます。

それは、自宅の中に小さな「サンクチュアリ(聖域)」を作る行為に似ています。

  朝に見る青い絵

実践1【朝の儀式】情報収集の前に、青い絵を見る1分間

朝起きて、最初に何を見ますか? もしそれがスマートフォンの画面なら、脳は起床直後から「他人の都合」や「世界の情報」というノイズにさらされることになります。これでは、一日中、何かに追われている感覚が抜けません。

Blue Coverが提案したいのは、「朝の1分間、青い絵を見る」という儀式です。

色彩心理学において、青は副交感神経に働きかけ、脈拍や呼吸を落ち着かせる効果があると言われています。

例えば、石田宗一郎さんの作品のように、日常の風景を極めてクールに、抽象的に切り取った写真は最適です。 そこには余計な感情や物語がありません。あるのは、透き通るような静寂だけです。

コーヒーを淹れ、スマホを触る前に、その青い色彩だけをぼんやりと眺める。 思考を働かせる必要はありません。「ただ、見る」。

この1分間の「静寂のバリア」を作ってから一日を始めると、不思議なことに、その後の情報の波に飲み込まれにくくなります。朝の青いアートは、あなたを守る盾になるのです。

👉 石田宗一郎の作品を見る

実践2【夜の整え】思考の残骸を優しく流す、曖昧な光の絵

夜、家に帰ってきても、脳が覚醒して眠れない時があります。 本当になぜか脳がさえているのか眠れないときが私もあります。そんな夜に見るべきは、「輪郭が曖昧な作品」や「陰影のある立体作品」です。

はっきりとした線や、強いメッセージ性のある作品は、脳を刺激してしまいます。 一方で、夕暮れ時の風景画や、光と影のグラデーションで作られた木彫作品などは、一日の活動で蓄積した「思考の残骸」を優しく溶かしてくれます。

言葉にならない曖昧な輪郭こそが、夜の安らぎを深める(作品:岸野 承)

部屋の照明を少し落とし、岸野 承さんの作品「休」に落ちる影を眺めてみてください。

木彫の表面に刻まれた無数の時間の痕跡が、光の加減で表情を変えます。

 「ここから先は、何も考えなくていい」 作品がそう語りかけてくるような、優しいトーンのものを選んでみてください。 その曖昧さが、深い眠りへの導入剤となります。

👉岸野 承の作品を見る

「飾る」から「使う」へ。暮らしに静けさをインストールする

美しいから飾る。好きな作家だから飾る。 もちろん、それがアートの基本です。

しかし、情報があふれる現代においては、「自分の心を守るためにアートを使う」という視点があっても良いのではないでしょうか。

朝のノイズを遮断するための「青」。 夜の思考を沈殿させるための「陰影」。

それは、あなたの暮らしに「静けさ」という機能をインストールすることです。 12月の忙しい日々にこそ、一枚の絵が持つ静かな効能を、ぜひ体験してみてください。

Blue Coverでは、そんな「時間のスイッチ」になり得る作品たちを、静かに並べてお待ちしています。


【次回について】 静かな絵と、見えない香り。 次回は、年末の部屋に「不思議な静けさ」を招き入れるための、少し特別なペアリングについて。視覚だけでなく、もう一つの感覚を使って、空間のノイズを編集する方法を探ります。 (12月中下旬公開予定)

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