ここ10年ぐらいマインドフルネスが盛んになったのは、グーグルやマイクロソフトなどアメリカの大手企業が研修に取り入れて、ストレス予防や心の健康に効果があることがデータで出てきた。その上、成果=アウトプットにまで良い影響が出てきたからなんだ。日本でもNTTやソフトバンクなどが研修に取り入れるようになって話題になった。

 また、日本の仏教が人間の本質的な心の在り方や生き方に直面しようとせず、壇家ビジネスや葬式仏教に堕落していることへの批判から、ブッダの教えと瞑想法を純粋に受け継いでいる小乗仏教(タイやミャンマーやベトナムに伝わったので南伝仏教ともいう)への注目もある。マインドフルネスはもともと小乗仏教の瞑想法なんだね。そして、カウンセリングの分野でも、うつの再発予防に効果があるというデータが出ているマインドフルネス認知療法やACT(アクセプタンス・コミットメント・セラピー)に注目が集まっているんだ。
 マインドフルネスの定義は「今、この瞬間の体験に意図的に意識を向け、評価をせずに、とらわれの無い状態で、ただ観ること」。うーん、分かるような分からないような難しそうな定義だね。

 ポイントは、取り戻せない過去への後悔とやってこないかもしれない未来への不安に行きがちなふわふわした心に翻弄されないために、今ここでの体験に意識的意図的に焦点を当て続けること。そしてその際反応として表れてくる思考や感情をジャッジせずひたすら観察すること。つまり前述した、「私=悩む人」ではなく、「私=悩みを観察する人」という説明が分かりやすいよね。必要のない過剰な心配事から解放されて、今ここをクリエイティブに愉快に生きる道が開ける、ってわけ。

では、まずは早速マインドフルネスの基礎ワークをしてみよう。基本中の基本だ。
最初に、呼吸法アセスメントでしたように呼吸の回数を数える。1分間に往復で何回呼吸したか? 回数を数えておく。

<マインドフルネス瞑想法>
 椅子に楽に坐って呼吸に意識を集中する。段々とお腹が呼吸と一体となる感覚を意識するとうまくいく。最初は雑念が出てくるけど全然OK。座禅と違って、雑念をなくそう、無になろうとしてはいけないんだ。むしろ雑念大歓迎だよ。いいね、この柔軟な考え。

  1. 床、または椅子に坐る(背筋を伸ばし、肩の力を抜く)目は閉じてもよい。
  2. 呼吸に合わせ、お腹が膨らんだり凹んだりするのを意識し、腹部に意識を集中する。自分の呼吸の波乗りをしているように、呼吸のすべての瞬間に意識を集中する。
  3. 呼吸からの意識が離れたことに気づいたら、その度に注意をそらせたものは何かを確認し、ジャッジしないで、静かに腹部に意識を戻し、呼吸を感じる。どんなことに気をとられても、何度でも注意を呼吸に戻す。

 雑念に気づくトレーニングでもあるので、雑念大歓迎。どんな雑念が飛び出してくるか? よーく見てみよう。ただし気づいた時点でジャッジしないで、すぐにお腹のふくらみ、凹みの身体感覚に戻るのがポイントだ。10分経ったら、自然に呼吸して再度1分間の呼吸の回数を数えてみる。不思議なことに、一切呼吸をコントロールしてないのに、ほとんどの人は回数が減ってリラックスする。これは恐らく、脳が何も心配しない空っぽの状態を感じることで、自然とリラックスに関係している腹側迷走神経が機能して、呼吸数も心拍数も少なくなって心が静かになるからだろう。

 うつの再発予防に効果があると実証されている方法にマインドフルネス認知療法がある。こちらのほうがやさしいという声もあるので、体験してみよう。

<マインドフルネス認知療法>

  1. 背筋をまっすぐにしてリラックスする。
  2. 自分の身体の内部を感じてみよう。皮膚で包まれている身体の内部全体を感じ続ける。
  3. 呼吸を意識する。吸う息、吐く息に伴って動くお腹へ気づきを向けていく。そして、お腹が膨らんだ時に「ふくらみ」、縮んだ時に「ちぢみ」とつぶやいてみよう。雑念に気を取られたのに気づいたら「雑念、戻る」とつぶやいて、お腹への意識に戻る。雑念や感情をジャッジしないで気づいて戻るだけだ。
  4. ある程度落ち着いてきたら、気づきを拡げていこう。呼吸に気づきを向けながら全身の感覚をも含めていく。そうすることでより広い範囲への気づきが持てるようになる。全身の感覚に気づきを向けて、全身で呼吸しているかのように、呼吸をたどっていく。さまざまな思いや感情が湧いてきたら気づいて、ジャッジせずそっとしておいて、身体の内部全体を感じ続けよう(10分~20分)。

 普通のマインドフルネス瞑想法よりうまくいった人の意見としては、「ふくらみ、ちぢみ」とつぶやく方が雑念が湧かなかった」や「呼吸に意識を向け続けるのが、こちらのほうがやさしかった。長く続けられそうな感じ」という声が多かった。
 単にお腹のふくらみ、ちぢみの身体感覚を感じ続けるのと、心の中でレッテルを張るようにつぶやくのとやりやすい方でよろしい。雑念ではなく感情が感じられたときは、感情にレッテルを張り、例えば「不安、戻る」とつぶやいて「ふくらみ」「ちぢみ」に戻ってみよう。
 マインドフルネスの基本は呼吸に意識を向け続けることなんだけど、別に呼吸でなくてもいいのが素敵だ。身体の動きでもいいし、自分の内部の音でも外部の音でもいい。今ここでの体験に意識を向け続けることで、さまよい荒れ狂いがちな思考や感情が鎮まる、または心を見つめることで自然と問題と距離が取れる。思い返せば、私の高校時代の憂鬱からの回復体験は、知らないうちにマインドフルネス瞑想をしていたんだね。おばあちゃん先生が何とも偉大だったのだ。何しろ60年前の話だからね。

 マインドフルネス瞑想が何だか難しくてうまくいかなった人には、身体の動きを使用する振り子瞑想法のほうが楽にできる可能性がある。

<振り子瞑想>

  1. 最初に軽く身体をストレッチするなど、準備体操を行なう(数分)。
  2. 足幅を肩幅に正面を向いて立ち、両手は体側に自然にたらす。
  3. この状態で身体を左右に振り子のようにゆっくりと揺らす。
    ※股関節をゆるめ、左右への揺れにあわせて、軽く膝をまげる。
    ※その場で歩いているような感じで身体を左右に振る。
  4. 重心の変化とともに変化する身体感覚に意識を集中しよう。
  5. 左に揺らせたときに心のなかで「左」と、右に揺らせたときには心のなかで「右」と、つぶやく

 確かにある程度心が静かでないと呼吸に意識を向け続けるのは難しい部分もある。あと、あまりにも怒りやイライラが強い場合は、体に意識を向ける方がうまくいく。イライラや怒りの強さに合わせて身体を揺すると段々と気持ちが落ち着いてくるはずだ。その後で呼吸に意識を向けると自然な流れでマインドフルネス瞑想が機能するだろう。

 さて、マインドフルネスが他の瞑想法や坐禅と違ってユニークで素敵なのは、生活すべてが瞑想になる、という点だ。食べるのも瞑想、歩くのも瞑想、家事も瞑想、動くのも瞑想になる。今ここでの体験に意図的に意識を向け、心をジャッジしないで観察するのがマインドフルネスなのだから、どんなことをしている時でも瞑想になる。
 例えば何かを食べるとき、私たちは今ここでの食べるという体験にしっかり意識を向けて味わっているかといえば、まったくそんなことはないよね。テレビを見ながら、雑談をしながら、音楽を聞きながら、いろんな心配をしながらなど、食べることは二の次になっている可能性が高い。マインドフルネスでない状態をマインドレスというけど、あらゆる体験を十分味あわないで、あれこれ心がさまようのに任せている。これはあまりにもったいないよね。食事のとき、通勤途中、仕事や家事、入浴、トイレ・・・、日常生活のなかで、私たちはほとんど「マインドレス」かもしれない。

たとえば、食事をしているとき・・・・・・

  • 何を食べているのだろうか?
  • どのように食べているのだろうか?
  • どんな味がするのだろうか?
  • 食べることに意識は向いているのだろうか?
  • 食べることを大切にしているだろうか?
  • 大切にできていないとすれば、注意はどこに向いている?
  • 大切にできていないのは、ナゼだろう?

 どうだろう、このチェックリストを見ると、ほとんど食べることを丁寧に味わっていないよね。

 マインドフルの研修講師をしているけど、分かりやすい体験として、干しブドウの瞑想を指導している。以下のインストラクションをしながら、干しぶどうをとことん丁寧に味わってもらうワークで、すこぶる評判がよろしい。

「まずは配っておいた干しぶどうを一粒だけ手の平に載せてみよう。そして干しぶどうを観察することから始めるよ。初めて見るようなつもりで観察してみよう。この干しぶどうができるまでのプロセスを感じてみるのもいいよ。ぶどうの木があって、太陽と雨が降り注いでぶどうの実が熟して、農夫がぶどうをつんで十分乾燥させて製品となり、やっと今この手の平にあるのを想像してみよう。では、指で干しぶどうをつまんでその感触を確かめ、色や表面の状態に注意を払うよ。こうしていると、干しぶどうやほかの食べ物についてのいろいろな思いが湧き上がってくるかもしれない。好きとか嫌いとかいう思いや感じも生まれるかもしれない。もちろん、ジャッジしないでね、気づいたら干しぶどうの観察に戻るよ。

次に干しぶどうを鼻に近づけしばらく匂いをかぐよ。最後にうまく口に持っていくために腕が手を持ち上げ、心と身体が食べ物を予期して唾液を出すのを意識しながら、唇に干しぶどうを乗せるよ。そしてゆっくりと口に入れ、一粒の干しぶどうの本当の味を確かめながらゆっくりとかみしめます。十分にかんだら、飲み下すときの感触を確かめながら飲み込むよ。飲み込むという行為でさえ意識的に体験できるんだ。飲み込んでしまうと、自分の身体が干しぶどう一粒分だけ重くなったような気がするかもしれない」。
 どんな体験をしたか? 参加者に感想を聞いてみると、
「すごく不思議な感じ。干しぶどうがこんなに味わい深くおいしいなんて」。
「今までいかに食べ物を味わっていなかったのかよく分かりました。これからはこの方法で3食ともゆっくり味わいたいです。もしかして、痩せるかも?」

 このマインドフルネス食事法は、実際のところ究極のダイエットになるんだ。3食食べる際このマインドフルネス法を実施して、3か月で5キロ痩せた人が何人もいる。ゆっくり味わうには自然とたくさん噛むよね。そうすると脳の食欲をコントロールする中枢が「もう十分」という指令を出すので、少ない量で満足し、しかも普段以上に美味しく感じられるというわけ。一石二鳥だね。

 そういえば、禁煙セラピーも、禁酒セラピーも実はマインドフルネス法を使用している。

禁煙セラピーでは、一本の煙草をできるだけゆっくりと意識的に味わい尽くすトレーニングを繰り返すことで、何となく無意識に吸っていた習慣から解放される。禁酒も無理やり止めようと頑張ってもなかなかうまくいかない。むしろ逆に、一杯のビールを10分かけてじっくりと意識的に味わい続けるトレーニングを重ねることで、飲まずにいられないという衝動や欲望から少しずつ解放されるんだ。面白いね。 

 マインドフルネスは奥が深い。食べるのも瞑想、歩くのも瞑想、お掃除も瞑想。生活すべてがマインドフルになれば、愉快に生きるのはそれほど難しくはないだろう。

筆者 大澤 昇 プロフィール
日本産業カウンセラー協会認定シニア産業カウンセラー・臨床心理士。
1971年 早稲田大学卒業、2004年 目白大学大学院修了後、企業内カウンセラーや学生相談室カウンセラー、また大学講師として様々な経歴を持つ。
現場で培った経験を活かし、メンタルヘルス講師や、教育カウンセリング講師、大学の非常勤講師として活躍中。
また数多くの論文・著書を発表しており『やすらぎのスペース・セラピー 心と体の痛みがあなたを成長させる』『心理臨床実習』『トラウマを成長につなげる技術』等の著書がある。

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