・問題の外在化技法

 心理療法のおおまかな流れとして、エビデンスベーストとナラティブベーストがある。エビデンスベーストは文字通り証拠主義。治療仮説を立て、その仮説が有効かを統計で検証し、統計的に有意ならば、その方法が治療の第一優先となる。通常の身体の治療では、これ常識だよね、いわゆる標準化治療だ。ところが、心の領域ではそう簡単ではない。原因―結果がそう簡単にストレートには関連付けられない要素もあるからなんだね。よくなる要因にカウンセラーの人間性や器の大きさ、それに相談者との信頼関係、どんな物語が共有されるかが濃密に関係してくるからなんだ。 

 ナラティヴ・セラピーとはエビデンスベーストと逆のアプロ―チで、物語り療法と呼ばれる。因果論ではなく、問題をストーリーやメタファーとして自分と切り離し、語りなおすことによって世界を再構成しようとするセラピーだ。目的に向かってカウンセラーと相談者が一緒に必要な物語を紡いでいく、目的論的アプローチだね。このナラティヴ・セラピーの技法の一つである「問題の外在化技法」は愉快に生きるためのユニークでユーモア溢れる方法論なので大いに役に立つ。このメソッドは簡単に言うと、問題を客観視し自分の外に置くことだ。前述したクリアリングスペース法と共通するけど、こちらはメタファーやイメージを使用する。

 たとえば、うつの場合、うつを「ブルー」と名づけ「また、ブルーがやってきたな。今回のブルーは手ごわそうだな」「でもいずれ淡いブルーになるかもな」と自分にいってあげることで、うつを自分の外に出し外在化できる。それだけでもうつや不安から距離が取れるというわけだ。そういえば、私の好きなロックグループにブルーハーツがいるが、彼らの「ブルースをけとばせ」というナンバーは、まんま問題の外在化技法のお手本だ。悩み多き高校生にはこの曲を聞かせるだけで、けっこうなセラピーになった経験が何度もある。「やるぜ・ブルーハーツ」だね。

 セラピーにおける典型的な例としては、不登校を親や学校や子どものせいにするのではなく、「怠け虫が子どもに住み着いた」というストーリーによって外在化していく技法が素敵だ。

虫退治法

 子ども達の抱える問題を「虫や,鳴門の渦潮,スイッチ」などにメタファー化することで,症状との意図的分離を促す技法だ。簡単な手順は以下のとおり。

  1. 問題の原因究明をあれこれとしない
  2. 問題の原因を『虫』に特定する。虫を駆除すれば問題が解決すると説明
  3. 毎日虫退治の儀式を行う(たとえば,絵に描いた虫を,家族全員で紙が破れるまで叩くなど)。その対決の勝敗を記録する。負けた場合は罰ゲーム(対象は患者本人ではなく、患者を含む家族全員か、患者を除く家族のメンバー)

 イメージが豊かな小学生には凄く効果がある方法だ。もちろん、外在化だけでなく、家族みんなで敵をやっつけるという共同作業もセラピー成功の重要な要素となっている。 
 問題の原因を、「鳴門の渦巻きが脳に混乱を引き起こす」や「脳の中にスイッチがあり、オンになると不登校になる」とメタファー化し、渦巻が収まったり、スイッチがオフになったりというイメージを使用して外在化することも効果がある。メタファーの力、恐るべしだね。

子どものキレル、暴力への外在化技法

1)覚えていないことを承認する。
 子ども達は「キレて」暴力をふるったとき、どうしてそういうことをしたのかという説明ができないことがほとんどだ。まずは、そのことを最初から認めてあげ、「自分で何をしたかよく覚えていない感じになっちゃうんだよね。そういうことがよく起こるんだよね」とやさしく声をかける。
 子どもは叱られると覚悟していたのに、「覚えていなくてもいいの?」と安心する。その上で「どこまで覚えている?」と尋ねると、多くの場合が、「にらまれた」「ばかといわれた」など、自分を否定されるような刺激に反応していることが分かる。

2)キレる前の身体感覚に焦点をあてる。
 刺激となった出来事が分かったら、キレる直前の身体感覚に焦点をあてる。「身体のどこが苦しいか」「どこがいやな感じがするのか」を尋ねる。最初はすぐに答えられなくても、何度もていねいに聴いてあげると「胸がなんとなく苦しい」「のどがつまった感じ」「胃が気持ち悪い」「おろおろぞろぞろ」といったように、子どもは多彩な表現で自分の身体感覚を伝えてくれる。フォーカシングのアレンジだね。

3)身体感覚を外在化しコントロールの対象とする。
 漠然とした身体感覚は言葉を得ることを通してコントロールできるようになる。「『どきどき』がやってくる」「お腹から『おろおろぞろぞろ』が出てくると訳が分からなくなる」などと表現することができるようになると、「暴力」についてではなく、「どきどき」や「おろおろぞろぞろ」について、子どもと会話することが可能になる。

 このように、物語り方を変化させ間をとることでコントロールする力を身につける技法が、「問題の外在化」技法だ。キレる結果である「暴力」に焦点を当てるのではなく、「キレる」を表現している身体感覚やイメージに焦点を当てて話をすることによって、子どもは叱られる恐怖から自由になって、自分のことを語ることができるようになる。その積み重ねで、キレる状態を自らコントロールしたり予防することが可能になっていくのだ。子供たちにとっての、愉快に生きるベースが整っていくのだね。

・ミラクル・クエスション

 カウンセリングの世界で、ここ20年ほど注目されているセラピーが解決志向アプローチだ。悩みや、問題の原因を追究する立場と正反対で、解決イメージや今までにできたことに焦点を当てる。このアプローチの代表的な技法がミラクル・クエスションなる不思議なメソッドだ。

 具体的には、次のような変った質問をするのが特徴だ。
 「寝ている間に奇跡が起きて、すべての問題が解決しました。しかし、寝ているからあなたは解決したことに気がついていません。朝起きてどんなことから、また、どのように問題が解決したことに気づきますか」

 相談者は、朝起きてからどんなふうに顔を洗い、どんなふうに朝ごはんを食べ、どんなふうに服を着て、どんなふうに家を出て、どんなふうに電車に乗って、どんなふうに会社に入っていく~等など。このように、問題が解決した1日の様子を丁寧に丁寧にたどってイメージしていく。つまり解決イメージを事細かに作り上げていくわけだ。そして、その解決イメージの中から、できること、すでにできていることに焦点を当てていく。

 この方法はカウンセラーがいなくても自分で実行できるよね。先ほどの質問を自分に投げかけ、問題が解決した1日の様子をていねいにたどっていけばよい。この作業自体が過去へのとらわれでぐるぐる回っていた悪循環から解放してくれるというわけだね。
 また解決イメージをリアルに描けると、その方向に向かって身体が組織化されるのかもしれない。単なる「なりたい自分」の理想イメージを描くのではなく、日常的な言動から解決イメージをリアルに描くので、実行しやすい点が効果のある理由だろう。
 愉快なイメージ療法の見本だね。              

                            

筆者 大澤 昇 プロフィール
日本産業カウンセラー協会認定シニア産業カウンセラー・臨床心理士。
1971年 早稲田大学卒業、2004年 目白大学大学院修了後、企業内カウンセラーや

学生相談室カウンセラー、また大学講師として様々な経歴を持つ。
現場で培った経験を活かし、メンタルヘルス講師や、教育カウンセリング講師、大学の非常勤講師として活躍中。
また数多くの論文・著書を発表しており『やすらぎのスペース・セラピー 心と体の痛みがあなたを成長させる』『心理臨床実習』『トラウマを成長につなげる技術』等の著書がある。

関連コンテンツ