第8章 愉快な愉快な心理療法 その⑷ タッピング

慢性的なうつに効果があるタッピング
何年もうつが治らない慢性的なうつに効果があるタッピングを紹介しよう。
うつと関係する脳の部位は扁桃帯だ。扁桃帯が暴走して感情のコントロールが利かなくなった状態がうつと考えられる。何年も抗うつ剤を飲んでも効かない場合、アメリカでは最新医療として磁気で扁桃帯を刺激する方法が効果をあげている。日本でもやっとこの新しい医療技法が認可された。
そこで、扁桃帯に比較的近い頭の側頭部をタッピングしたり「ピタッフワッ」をする方法をうつの方に試したところ、効果があったという報告を何人かの方から受けとった。副作用はないので、薬の効かない方には試してみる価値がありそうだ。方法は単純で、人差し指と薬指の2本の指で左右交互に頭の両側頭部を叩いて刺激する。あるいは溶け合い動作法の「ピタッフワッ」を側頭部を中心に実施する。うつまでには至らなくても、多少気分が落ち込んだり不安に襲われた時にも気楽に試してみるとよろしい。
その⑸ アサーション・トレーニング

ここまでは、個人の内面に焦点を当てて、愉快になるための智慧を探ってきた。しかし、もちろん人間は「人の間」と書くように、人間関係や環境にもアプローチしないと、トータルに愉快に生きるのはむずかしい。とりわけ不愉快のドツボにはまるのは、ほとんどが人間関係だよね。そのための一番必要なスキルがアサーション・トレーニングなるメソッドだ。アサーションとは、自分も相手も傷つけずに尊重しながら、いいたいことを伝える自己表現のことだ。
コミュニケーションには、「いいたいけどいえない」ノンアサーションと、思わず感情的に攻撃的に反応してしまうアグレッション、そしてアサーションの3パターンがある。激ストレスに晒されてイライラするシーンではアグレッション・タイプになる傾向が高いが、日本人はどちらかといえばノンアサーションで、不安障害か抑うつ傾向になる確率が高いといわれる。
上手にアサーションするコツの一つは、「I Message」法だ。つまり「私は~と感じる」というように、私を主語にして、気持ちをなるべく冷静に伝える。これと反対の悪いパターンは「あなた(You)は、~だ」という「You Message」アプローチだ。
悪いコミュニケーションパターンは、間違いなく「あなたは、ここが問題だ」「あなたこそここがひどい」という「You Message」の応酬になっている。攻撃的になる暴走人間タイプは、もちろんこのパターンを極端にしたものだ。また、離婚カウンセリングをしていると、うまくいっていない夫婦の100パーセントが、この「あなたは~」パターンを繰り返している。
では、どうすればよいか? 基本的なパターンは、「あなた(You)は、~だ」を、「私(I)は、~だ」という話し方に置き換えてみることだ。より正確にいうと、「I’m ~,if you ~.」というパターンが必要になる。たとえば、「~していただけると、私が助かる(幸せ、ありがたい)んですけど」という言い方だね。
アサーションで、もう一つ大事なのはとりあえず相手の立場になってみること。相手に共感して、どんな気持ちだったんだろう、と想像してみることだ。そうすることで、相手の攻撃性に反応してこちらも攻撃的に応答してしまうアグレッション応酬パターンに陥らずにすみ、アサーションを試してみる余裕が出てくるはずだ。
<アサーションの方法>
- 事実を述べる
- 相手に共感する
- 「I Message」法で自分の気持ちやいいたいことを表現する
「私は~感じる」「~していただけると、私は~」で、私を主語にして、気持ちをなるべく冷静に伝える。
例「~されると、私はすごく悲しい」
「私はあなたが~してくれるとすごくありがたい」 - なんらかの提案をする
たとえば、毎日のように夜遅い時間に電話で悩みを相談してくる友人がいたとする。今日はとても疲れていて早くベッドに入っていて、悩みを聞く余裕がない場合、どううまく伝えるか?
- 電話してくれてありがとう。今ベッドに入ったところなの。悩みが続いているんだよね(事実を述べる)
- とても大変そうで、辛そうだね(相手に共感)
- 残念だけど、私は今日はとても疲れていて明日の朝早いからもう寝るところだったの。だからごめん。今は話を聞く余裕がないの(I Message)
- 明日なら余裕があるから、電話して(提案)
私は10年ほど前まで離婚カウンセリングをしていたことがある。相談に来る方のほとんどは妻のほうだ。だいたいは、もう6割がた駄目で関係は終わりでも仕方ないと感じてる方が相談に来る。7割駄目だと感じている方はカウンセリングではなく調停のほうに行くのだね、当然ながら。そんな妻たちにアサーションの考え方とIMessage法を教え、嘘でもいいから、一日3回だけ夫に「ありがとう」と伝えてね、とホームワークを出した。
すると驚くべきことに、1か月後には9割がたの相談者は離婚しない方を選んだのだ。夫は変えなくてもいい。ただひたすらIMessageでのコミュニケーションを貫いてもらっただけだ。夫にひどい言い方をされても「私はとても悲しい、そんな言い方をされると」と私を主語にして、ひたすらやさしく返すのだ。すると、あらら不思議? 段々と夫のほうも変化していった。「最近妻は変わって来たな、ありがとうと言われるし。俺にも悪い面があったかもしれない」と、柔軟な相手を尊重するコミュニケーションが復活したのだ。
こんな風に、どんな場面でもアサーションを心がければ、愉快な人間関係を築いていけるだろう。もちろん、アサーションが通じない人も中にいるかもしれない。そんな人とはさっさとバイバイするに越したことはないよね。


筆者 大澤 昇 プロフィール
日本産業カウンセラー協会認定シニア産業カウンセラー・臨床心理士。
1971年 早稲田大学卒業、2004年 目白大学大学院修了後、企業内カウンセラーや
学生相談室カウンセラー、また大学講師として様々な経歴を持つ。
現場で培った経験を活かし、メンタルヘルス講師や、教育カウンセリング講師、大学の非常勤講師として活躍中。
また数多くの論文・著書を発表しており『やすらぎのスペース・セラピー 心と体の痛みがあなたを成長させる』『心理臨床実習』『トラウマを成長につなげる技術』等の著書がある。



