悩みを観察する主体=まんじゅうのあんこ、愉快な自分を常に意識し、確立するのは、もちろんそんなに簡単ではない。
いろいろな工夫やトレーニングが必要となる。
まずは、私がメンタルヘルスのワークでよく読み上げる、思想家ケン・ウイルバーのインストラクションを紹介する。
ここでの「私=悩む人」ではなく「私=悩みを観察する人」という五感をフルに駆使した丁寧なインストラクションをのんびり声に出して味わってみよう。

「自分の体のなかに起こる感覚を見てみよう。あなたは、今、どこであろうと、体の感覚に気が付く。
今、椅子の上に座っているのであれば、お尻のあたりの暖かさ、首のまわりのコリなどに気が付くかもしれない。
こうした感覚自体は、緊張や、締め付けられるような感じではあっても、それに気が付くことには何の努力もいらない。
こうした感覚は、あなたの今の意識のなかで起こっている。
その意識は、まったくシンプルで、努力も入らず、自前のものである。
あなたは、単に、何の努力もせず、それらに気が付く。
 今度は、心のなかで起こる思考に眼を向けてみよう。
あなたは、さまざまなイメージ、シンボル、概念、望み、希望、恐れなどが実に自然に、勝手に自分の意識のなかで起こっていることに気が付く。
それらの思考や感情は、起こり、しばらくとどまり、やがて去っていく。
これらの思考や感情は、あなたの現在の意識のなかで起こるのであるが、その意識は非常にシンプルで、努力も要らず、自然なものだ。
雲が漂うのを観る。あなたが雲ではないがゆえに、あなたは雲を目撃する者である。
体のさまざまな感覚を感じる。あなたが感覚ではないがゆえに、あなたは、感覚を見守るものである。
あなたは、思考が漂い過ぎていくのを見る。
あなたは思考ではないがゆえに、あなたは思考の目撃者である。
自然に、何の努力もなしに、すべての事象は生起する。あなたの現在の努力のない意識のなかで。
 あなたとは誰か。あなたは外にある客体ではない。あなたは感覚でもない。あなたは思考ではない。
あなたは何ら努力なしにそれらに気が付く。あなたは誰であり、何であるのか。
自分でこのように言ってみよう。わたしには感覚がある。しかしわたしは感覚ではない。
ではわたしは誰か。わたしには思考がある。しかしわたしは思考ではない。ではわたしは誰か。
わたしには望みがある。しかしわたしは望みではない。こうして、あなたは意識を源までさかのぼる。
目撃者にまでさかのぼり、そこで安らぐ。
わたしは、客体でも、対象でも、感覚でも、思考でも、望みでもない。
 目撃者に落ち着き、自分を対象ではない、感情ではない、思考ではないと認識してみる。
やがて、あなたは、偉大な自由、解放の感じに気が付くだろう。
小さな、有限な対象との同一化という恐ろしい拘束から開放された感じを味わうだろう。
あなたの小さな身体、心、小さなエゴなどは、すべて見ることのできる対象であり、これらは真の見者、真の「自己」、純粋な「目撃者」ではない。
そしてあなたとは、純粋な目撃者なのである。

 ケン・ウィルバー著(松永太郎訳)『統合心理学への道』

 どうだろう? 静かにこれらの言葉を味わっていると、何だか気持ちが静まり、思考が働かなくなり、純粋な観察している意識だけが浮上して、空っぽの自分に安らぐことができるかもしれない。
 そうは言っても、理屈は分かるけど、そんなにうまくいかないぜ、という声が出てくるのももっともだ。
実際にこのセオリーが身につくためには工夫が必要になる。
そこで、イメージを使用する「私=観察者セラピー」を実際に体験してみよう。
 考え方としては、まずは自分の中に起こるありとあらゆる思考・感情に気づき、ジャッジしないで受け入れる。
すると、自分と問題との間に距離が取れて、問題に巻き込まれたり圧倒されたりしなくなる。
そして、自分の思いや気持ちは、本当の自分ではなく、浮かんでは消えていく流れのような、あくまでも自分の一部、あるいは小さな自分と考えられるようになっていく。
脳という身体の一部分が過去のネガティブな記憶や条件づけられた自己イメージに自動的に反応している状態ともいえるからだ。
自分の脳の中で起こっているあらゆる反応を観察し意識している自分が、<本当の自分>と考える。
私とは「悩んでいる人」ではなく「悩みを観察している人」というイメージセラピーだ。

<観察者セラピー1>

  1. 座るか横になるかして、何回か深呼吸しリラックスする。
  2. 自分の前を川が流れているとイメージする。なるべくリアルに川の広さや、流れの速さなどをイメージする。
  3. 自分は川のほとりで、川を静かに眺めているとイメージする。
  4. 内部に思いや感情が湧いてきたら、それらが目の前の川の中を流れていくようイメージする(小さな葉っぱに乗せてもいい)。

<観察者セラピー2>

  1. 座るか横になるかして、何回か深呼吸しリラックスする。
  2. 自分を青空とイメージする。なるべくリアルに青い色の空の拡がりを感じる。
  3. 内部に思いや感情が湧いてきたら、それらを雲とイメージし、雲が眼の前を流れていくようイメージする。

 方法論は同じなので、どちらかイメージしやすい方のセラピーを何度も体験してみよう。
ストレスを感じたら即このイメージワークをするように心がけていると、「私=観察する人」という実感が身についていくだろう。

筆者 大澤 昇 プロフィール

日本産業カウンセラー協会認定シニア産業カウンセラー・臨床心理士。
1971年 早稲田大学卒業、2004年 目白大学大学院修了後、企業内カウンセラーや学生相談室カウンセラー、また大学講師として様々な経歴を持つ。
現場で培った経験を活かし、メンタルヘルス講師や、教育カウンセリング講師、大学の非常勤講師として活躍中。

また数多くの論文・著書を発表しており『やすらぎのスペース・セラピー 心と体の痛みがあなたを成長させる』『心理臨床実習』『トラウマを成長につなげる技術』等の著書がある。

関連コンテンツ