• 姿勢による悩みワーク(エンプティ・チェア法を利用)

 イライラや怒りを、ピッタリな姿勢をとることを利用して、間をとり、気分を表現する方法がある。姿勢と気分の関係については前述したとおり、大きな関係がある。うつや気分が落ち込んでいる人で背筋がぴっと伸びて上を向いている人はいないだろう。場合によっては、わざと姿勢を変えることで気分の変換を図ることも必要だ。しかし、無理やり姿勢を変えるアプローチをするよりも、むしろ今の気分をいったん姿勢で表現してみるのも効果がある。そして、席を代わり、問題が解決したイメージを作ることで、より一層の気づきが生じるから不思議だ。

  1. 椅子を二つ用意し、一つの椅子に座る
  2. 今悩んでいることをイメージし、その悩みにピッタリな姿勢をとる
  3. その姿勢で悩んでいるときの気分を測定(0~10のスケールクエッション。0が問題なし、10が最も悩みが大きい)
  4. 席を移り、悩みが解決した自分をイメージし、解決した際の姿勢を作る
  5. その自分から、目の前の悩んでいる姿勢の自分に「こんなふうに見えるよ」「こうしてみたら」と声をかける
  6. 前の席に戻り、声をかけられてどう感じるかを味わう
  7. 今の気分に合わせて姿勢を変えてみる
  8. 再度、気分を測定し、違いを感じる

 解決イメージと解決姿勢を作ることで、悩みと距離がとれるだけでなく、何らかの積極的アプローチが見えてくることも多い。愉快に生きるためのメソッドになる。

<ボイスチェンジ法>

 この方法は、自分の心をよく観察し、どんな思いが自動的に湧いているかに気づき、もしもその思いが必要以上にネガティブだったら、ユーモアをもって表現するユニークな方法だ。

  1. イライラや怒り、うつなどネガティブな感情の程度を0~10で評価する
  2. 自分の心をよく観察し、どんな思いが自動的にわいているかに気づく
  3. その思いを自分とは違う声で表現してみる。たとえば「なんて自分はだめなんだ」という思いにとらわれていたら、その言葉を<どらえもん>の声でしゃべってみる。あるいは、その言葉にメロディをつけてミュージカルのように歌にして、くちずさむ(5~10回)
  4. 再度、イライラや怒りの程度を0~10で評価する 

 この方法を実施すると、おそらく、自分の声や歌に思わず笑ってしまうだろう。そうすることで、必要以上にネガティブになっていた自分を客観視すること、余裕を持って見つめることが可能になるはずだ。 

<リピート法>

 これは、相手のことばをリピートすることで、相手に怒りの吐け口を作ってあげるという方法だ。たとえば、「どうしてこんな簡単な報告がきちんと書けないんだ」といわれたとする。その時に、相手がいった言葉を繰り返し、「簡単な報告がきちんと書けないんですよね。すいません」と答える。
 そうすると、上司には、自分の言ったことを相手がきちんと聞いたという満足感が多少生まれる。これが怒りのはけ口になるわけだ。もちろん、その前にテン・カウント法(吐く息を10回数える)をして、気持ちを落ち着かせてから冷静に答えるとよろしい。

<バルコニー法>

 家にあるバルコニーだけでなく、劇場の二階席もバルコニーといわれるが、「バルコニー法」とは、少し高いところから今の状況を客観的に見る方法だ。

イメージでバルコニーに上がることがポイントとなる。劇場の2階桟敷席に上がり、舞台を見下ろしてみるのだ。舞台の上にいるのは自分と相手。要するに第三者の視点で自分と相手の様子を見るのだね。深呼吸とともにこれを実行すれば、冷静な判断ができるようになる。
 たとえば、理不尽に自分に対して怒りをぶつけてくる上司がいたとする。そのとき、相手と同じ目線ではなく、少し高いところから相手を見て、なぜこの人は今怒っているのだろうと客観的に考えてみる。上司は、本当に私自身に怒っているのか。それとも、昨日、妻とけんかでもしてイライラしているから意味もなく私に当たってきているのか。
 おおよそ夫婦間の喧嘩で妻が感情のコントロールが効かず、怒りを喚き散らしているときは、夫に対して怒っているのではなく、怒りたい気分だから、イライラが積み重なっているから、怒っているだけ、というケースも多いといわれる。そんな時はバルコニーに上がって妻が怒っている原因をいろいろ推測してみると、論理的に考えられるようになり、夫のほうもキレることが少なくなる。不愉快を理解することが、愉快への道だね。

   

<植物神経セラピー>

 解剖学者の三木成夫さんによると、植物/動物/人間、そして自然や宇宙とは密接につながっている、という。あらゆる生命の機能は「食(栄養)と性」だ。植物は春にいっせいに芽を吹き栄養を摂取して成長した後、秋には実を残し生命をつないで枯れていく。鮭は生まれた川を下り海に出て栄養をたっぷり取って成長した暁には、もと来た川を一切栄養はとらず死を賭して遡り、生殖して死ぬ。しかも、これらのプロセスは自然、宇宙の移り変わりにきっちりと連動し、自動的に進むようにプログラミングされている。凄いよね。

 動物の体には内臓系の植物神経と体壁系の動物神経がある。植物神経とは自律神経のことで、敵(ストレス)が現われたときに働き「戦うか逃げるか」反応をする交感神経とリラックスにつながる副交感神経=腹部迷走神経とがあり、私たちの意志とは無関係に自動的に働いてくれている。三木さんは、この植物神経の動きこそ「心」につながっている、という。たしかに内臓の逼迫とつながる交感神経の暴走によってさまざまな不安や怒り、恐怖が生じることからもこの説には一理ある。筆者は、心は脳に限定されるのではなく、血液や体液にも、内臓にも、細胞にも存在するのでは? と考えていることから「流れる心」という概念に心惹かれるが、その視点にもつながるよね。
 そして、三木さんは内臓系の植物神経は「遠」につながるという。つまり、鮭や植物で理解できるように、植物神経は自然や宇宙とのつながりがあるという意味だろう。女性が月の満ち干との関係で排卵(生殖)や月経が起こることからも納得がいくよね。動物神経は感覚と運動を機能とし、骨、筋肉、脳につながっている。そして、動物神経は、生命の本質である「食と性」をつかさどる内臓系の植物神経をうしろから守るように包み、「食と性」が少しでも有利に機能するよう植物神経を移動させる役割を持つ。それゆえ、動物神経はどうしても「近」の刺激に反応するようにできている。人間の場合、この動物神経ばかり働きすぎることで、ささいなことが気になりこだわり右往左往して心身の不調を呼び起こすことにもつながるのだね。
 こう見てくると、ほとんどのカウンセリングやセラピーは動物神経的なものだろう。「近」の刺激への反応を扱う行動療法しかり、認知を修正する認知療法しかり、精神分析しかり(思考や認知を生み出す脳に働きかけるという意味で)である。 私が、植物神経セラピーと強調したいのは、内臓感覚を強調したロジャーズ後期やフォーカシングを開発したジェンドリンを意識してのことだが、三木さんの内臓(植物神経)こそが生命や心の本質であり、天や自然につながっているという視点に触発されたからだ。内臓感覚や身体感覚に焦点を当てるフォーカシングがなぜ効果があるのかが不透明であった部分が、「近」ではなく「遠」が機能するから、という視点で腑に落ちたような気がする。
 この点は、「私=脳=思考」にこだわるから苦が生じるという仏教的な考えや、夏目漱石が「則天去私」といったことにもつながるだろう。また、宇宙と親密になる方法として、内臓感覚を鍛えるという方法論にもつながる。

(つづく)

筆者 大澤 昇 プロフィール
日本産業カウンセラー協会認定シニア産業カウンセラー・臨床心理士。
1971年 早稲田大学卒業、2004年 目白大学大学院修了後、企業内カウンセラーや学生相談室カウンセラー、また大学講師として様々な経歴を持つ。
現場で培った経験を活かし、メンタルヘルス講師や、教育カウンセリング講師、大学の非常勤講師として活躍中。
また数多くの論文・著書を発表しており『やすらぎのスペース・セラピー 心と体の痛みがあなたを成長させる』『心理臨床実習』『トラウマを成長につなげる技術』等の著書がある。

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