第8章 愉快な愉快な心理療法 その⑶‐❸ A C T

ここ10年ほどで一番、臨床現場で話題になってきたのが、ACT
アクセプタンス&コミットメントセラピー(Acceptance and Commitment Therapy)だ。
ACTでは、不快な感情、思考、感覚を避けるのではなく、それらを受け入れることが重要だとされていて、同時に人生における価値観や目標を明確にし、それに基づいて行動することを強調している。ACTは、マインドフルネスからより宗教的要素を除き、システマティックなテクニックを洗練させた心理療法だ。
このエッセイで述べてきた考えやアプローチを上手に整理してくれているので、愉快に生きるためのメソッドとしても凄く役に立つ。
マインドフルネス的なテクニックでネガティブな考えを「つかまえ、受容し、結果的に手放」したあとで、自らの人生の価値(人生において最も大事にしているもの、たとえば愛の実現とか健康の維持とか)にとって「より効果的な行動」に出ることを重視する。ACTでは、「思考はまったくコントロールできないが、行動はコントロールできる」という立場をとる。
ACTには6つの核があるが特におもろいのは、脱フュージョンとアクセプタンスだ。
(1)脱フュージョン(思考を観察する)
フュージョンとは融合という意味で、ACT では自分の思考と融合している状態を指す。
自分の思考に囚われ、巻き込まれている状態だね。そして、思考と距離をとることを脱フュージョンという。一歩下がって思考を見ると、思考は単なる言葉にすぎないことがわかり、必ずしもそれが事実・真実ではないことがわかる。そのことによって、思考に翻弄されにくくなるのだ。
マインドフルネスと考え方は同じだね。ただ、その方法論が愉快なので、紹介しよう。
1.「自分は~である」応用編
①
自分の否定的な自己評価を「私は~だ」という表現にする。
次に「『私は~だ』という考えを持っている」という言い方になおす。さらに、心のなかで「『私~だ』という考えを持っている、ということに気づいている」 と言い換える。
②
思考を葉っぱに乗せて流す。自分は川のほとりで葉っぱを目撃する者だ。
以前紹介した瞑想法だが、思考を、葉っぱだけでなく、流れる雲、空を飛んでゆく鳥、道を通り過ぎる車などと重ね合わせ、自由に行き来させる。一番ピッタリくるイメージを使うのがよろしい。

2.アクセプタンス(心を開き受容する)
つらい感情・感覚はなくなってほしいと思い、抵抗・排除したくなる。しかし、 排除しようとしても感情はなくならず逆にいっそうその感情が強まる悪循環になることが多くあるよね。感情に囚われると価値ある行動がとれなくなるのだ。そうならないために、つらい感情や 感覚を心を開いて受け入れるスペースを作る。 それをアクセプタンスと言う。感情に抵抗して排除するのではなく、観察し、そこに置いておく、あるがままにしておく。このへんは前述したフォーカシングと共通だね。
ACT的な思考の処理のしかたは、たとえばこんな感じだ。
「私は皆に嫌われバカにされるんだ」
→「ああ、また頭の中でいつもの『私はダメ人間ショー』の放送が始まったな(マインドフルネス)」
→「このショーが流れるのを止めることはできないけど、私の人生の価値の実現のためにはこいつの言うことを信じるわけにはいかない。こいつと距離をとるテクニックをいろいろ練習したぞ」
→「ショーを小さなテレビの中に入れて派手な字幕をつけるイメージをしてみよう(マインドフルネス)」
→「あれ? なんかさっきより深刻な気分じゃないな」
→「そうだ、お昼を作ろうとしてたとこだったんだ。もうひとつやってみよう。きゅうりを刻む感覚を五感で最大限に味わってみるんだ。ああ、いい香りだ。サクサクという音もいい(マインドフルネス)」
→「ああ、集中してるうちにヘルシーな昼ごはんができた。あいつは相変わらず不快だが、つかまってしまわずにすべきことができたぞ」
→結果的に落ち着く
→実践の積み重ねで生きやすくなる
こんな風に、ACTではマインドフルネスを上手に使いながら、思考や感情はユニークな工夫でかわしながら、あくまでも今ここですべき行動に集中していく。なんだか、愉快になるのはとても簡単だね。


筆者 大澤 昇 プロフィール
日本産業カウンセラー協会認定シニア産業カウンセラー・臨床心理士。
1971年 早稲田大学卒業、2004年 目白大学大学院修了後、企業内カウンセラーや
学生相談室カウンセラー、また大学講師として様々な経歴を持つ。
現場で培った経験を活かし、メンタルヘルス講師や、教育カウンセリング講師、大学の非常勤講師として活躍中。
また数多くの論文・著書を発表しており『やすらぎのスペース・セラピー 心と体の痛みがあなたを成長させる』『心理臨床実習』『トラウマを成長につなげる技術』等の著書がある。



