愉快に生きるための心構え(マインドセット)としては、何と言っても自分を好きであることが必要だ。相談者に「自分を好きですか」と尋ねると、8割から9割は好きどころか、「自分なんて大嫌い」と答える。これでは、ただでさえ大変な社会の荒波の中で生きることは、途轍もなく苦しいに違いない。まずは自分に対して「なるほど、なるほど=YES」を言ってあげることがどうしても必要となる。「なるほど・なるほど主義」だ。無理に自分を好きになる必要はない。ただ、誰の中にもある善と悪、光と影、優しさと意地悪さ、などの二面性の両方が自分の中にもある、と気づき「なるほどね」と認めるだけでいい。
 ここでは、カウンセリングの神様と言われるロジャーズの考えが凄く参考になる。

 “私は経験や自分自身のほんの小さな面をも大切にしてきた。私は、怒り、優しさ、恥ずかしさ、傷つくこと、愛、心配、与えること、おそれ―あらゆる湧き上がってくる反応を、肯定的、否定的ということにこだわりなく―貯えてゆきたい。湧き上がってくる考え~ばかげていること、創造~当を得たもの、気狂いじみたもの、達成できそうなもの、性的なもの、凶悪なもの~が好きである。これらの感情、考え、そして衝動を、豊かになりつつあるものとして受けとめたい。それらすべてにしたがって行動したいとまでは思わないが、それらを受け入れると、より本物の自分になれる。そうしていけば状況にふさわしい行動が即座に取れるようになると思う”

 一般的には、いわゆる良くないとされる人間のダークな側面、凶悪なもの、性的なもの、気違いじみたものを認め受け止め好きになることで、むしろより豊かな本物の自分に成長できる。すると、それらに翻弄されず、コントロールできる自由自在さが浮上してきて、愉快に生きる基礎ができる。止められない脳の即座の反応を肯定的、否定的に関わらず、すべて気づき、認めること。「こんな自分じゃだめだ」とか「もっと、いい人にならなくては」「怒りやイライラを何とかしなくては」などと自分を否定するのは却って逆効果だ、とロジャーズは力説する。どんなネガティブな感情や思いも、まずは気づいて認めること。「なるほど、なるほど、いろいろあるよね。大変だよね」と優しく自分に語り掛けることで、むしろ人間性が豊かになり、成長につながる。うーん、何という逆説だ。不思議だね、人間の心という得体のしれないものは。ある意味では本当に愉快だ。

 では、自分を認め好きになるために必要な「なるほど・なるほど主義」の実際的なワークを紹介する。自動思考やネガティブな感情に気づき認めることで問題と距離が取れ、人間性が豊かになり、愉快に生きることに繋がるワークだ。

1)現在感じているストレスや気になっていることを思い浮かべてみましょう。なるべくリアルに今ここで起こっているように具体的にイメージしてみてください。たぶん相手がいるだろうから、相手の雰囲気、表情、声、言葉のニュアンスなど、五感をフルに使ってイメージして。そうするといろいろな感情が湧いてきます。怒りやイライラや不安など。そうしたら、その感情の強さを0~10で評価します。10が最悪、0が問題なしで、今の状態はいくつか? 現在あまりストレスがない場合は、ここ1ヵ月ぐらいに感じたストレスをイメージしてもいいです。

2)では、怒りやイライラなどの感情に晒されている現在の身体の内部の感じを感じてみましょう。たとえば、胸の辺りがむかむかするとか、のどが詰まった感じとか、おなかが硬い感じとか。

3)そして、心の中で、「なるほど。なるほど。そんな気持ちになるのももっともだね。分かったよ」と5回ほどやさしく声をかけてあげましょう。

4)再度、怒りやイライラなどの感情を0~10で評価します。

5)再度、身体の内部の感じを感じてみます。特に2)で感じた部分に変化が生じているかを感じてみましょう。

 どうだろうか? 本当の自分はネガティブな思考や感情ではなく、それらに気づいた上でジャッジせず「なるほど。なるほど。そんな気持ちになるのももっともだね。分かったよ」と声をかけている自分、と考えるのがポイントだ。観察者・目撃者としての自分ともいえる。声をかけている主体が本当の自分なのだから、その自分を嫌いになるのは無理だ。本当の自分は、嫌いでも好きでもない純粋なニュートラルな意識、あるいは意志みたいなものといえるだろう。   

<結論>愉快に生きるには、不愉快が必要不可欠なのだ。なんという愉快な逆説だろう、うっとりクラクラだね。次回は「まんじゅう主義」

筆者 大澤 昇 プロフィール

日本産業カウンセラー協会認定シニア産業カウンセラー・臨床心理士。
1971年 早稲田大学卒業、2004年 目白大学大学院修了後、企業内カウンセラーや学生相談室カウンセラー、また大学講師として様々な経歴を持つ。
現場で培った経験を活かし、メンタルヘルス講師や、教育カウンセリング講師、大学の非常勤講師として活躍中。

また数多くの論文・著書を発表しており『やすらぎのスペース・セラピー 心と体の痛みがあなたを成長させる』『心理臨床実習』『トラウマを成長につなげる技術』等の著書がある。

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