朝の光が、部屋を変える時間── アートと、一日のはじまりの話
朝、カーテンを少し開けると、光が部屋に斜めに差し込んでくる。
その光の中に、壁に掛けた絵があります。
夜に見るときとは、まったく違う表情をしていました。
色が少し明るく、輪郭がやわらかく、どこかうれしそうに見えた。
そのとき、ふと思ったことがあります。
絵は、光と一緒に生きているのだと。
朝の光は、毎日違う
朝の光には、他の時間帯にはない特質があります。
太陽が低い位置にあるため、光が横から差し込み、空間に奥行きが生まれます。
色温度もやわらかく、オレンジがかった温かみがある。
雲の状態によって、光の量も刻々と変わります。
同じ部屋に、毎日少しずつ違う朝が来る。
これは当たり前のことなのですが、普段はあまり意識しません。
忙しい朝は、光の変化を感じる前に一日が始まってしまいます。
部屋にアートがあると、この変化に気づく機会が生まれます。
絵は、光の状態を映し出す「鏡」のような役割を、静かに果たしているからです。
絵は、光と対話している
壁に絵を掛けるということは、光との関係をつくるということでもあります。
絵の色は、当たる光によって変化します。
朝の斜光の中では、昼の均一な光とは異なる陰影が生まれ、
同じ絵が別の奥行きを見せることがあります。
アートは、置いた瞬間から光と対話をはじめる。
それは、毎朝少しずつ異なる表情を見せてくれる、生きた存在だから。
これは特別な絵だけに起きることではありません。
どんな絵も、光の中でその表情を変えます。
朝にしか見られないその絵の顔を、知っているかどうか。
それだけで、部屋との関係が少し深くなります。
朝にアートを見るということ
慌ただしい朝に、アートを「鑑賞する」必要はありません。
ただ、視線がふと止まる場所がある。
それだけで十分です。
コーヒーを淹れながら、あるいは支度の合間に、
壁の絵がちらりと目に入る。
「今日は少し違って見えるな」と思う一瞬。
その小さな気づきが、一日の始まりをほんの少し豊かにします。
note38回で書いた「余白」の話とつながりますが、
朝の絵との出会いは、一日の中の「意識の置き場」になります。
その一点があるだけで、慌ただしさの中にも静かな呼吸が生まれます。
この記事で紹介する作品
松田靜心(まつだ しずむね)さんの作品「たくさんの朝の目をあけて」をご紹介します。

金色を基調とした画面に、ピンク、水色、オレンジ、グリーンの色彩が散らばっています。
無数の小さな点と筆触が、まるで光の粒子のように画面を満たしている。
この作品には、特別な素材が使われています。
鹿児島・桜島の火山灰です。
地球の内側から噴出した物質を混ぜ込んだ黒いベースの上から、
色彩が生まれていく。
「人が闇から生まれて闇に還るなら、その闇と闇の間にあるものが生」
という作家の言葉が、この作品の背景にあります。
朝の光の中でこの絵を見ると、画面の金色がいっそう輝き、
無数の色彩の粒が、まさに「たくさんの朝が目をあける」瞬間のように見えます。
作品には上下左右がない。まるで宇宙空間にいるように。 ── 松田靜心
タイトルは制作後に、詩や音楽からのインスピレーションでつけられるといいます。
「たくさんの朝の目をあけて」という言葉は、
毎日がその都度はじまる、という感覚に満ちています。
朝の部屋に、この絵があること。
それは毎朝、少しずつ違う光の中で、生きることの豊かさを思い出させてくれる存在です。
この記事で紹介した作品
作品名:たくさんの朝の目をあけて
作家名:松田靜心(まつだ しずむね)
技法:キャンバス、ミクスドメディア(桜島の火山灰・アクリル・アルキドテンペラ)
サイズ:72.7×53cm エディション:オリジナル(1点もの)
このブログ「アートとくらす」は、アート作品を扱うBlue Coverによる連載です。
過去の連載(#1〜#10)はこちら アートとくらす バックナンバー



