静かな部屋に、香りを置くということ #14
深呼吸をしたとき、静かになるのは肺(脳と言うべきか?)だけではない。
香りは、言葉より先に届く。理屈より先に、体の奥が反応する。嗅覚だけが、感情と記憶に直接つながっているからだと、神経科学は言う。
プルーストが紅茶に浸したマドレーヌの香りで、幼い日の記憶ごと時間が戻ってきたように。香りとはそういうものだ。理解する前に、もう届いている。
そして、杉の森の香りの前で人が静かになるのは、そこが「帰る場所」だと、体が覚えているからかもしれない。杉の起源はおよそ7千万年前、人類より歴史は古い。
生物学者エドワード・ウィルソンは言った。「人間には、自然や生命と繋がろうとする本能的な欲求が備わっている」、と。人類が森の中で生きてきた時間は、都市で過ごした時間とは比べものにならないほど長い。
森の香りに包まれたとき、理由もなく落ち着くのは、気のせいでも癒しブームでもなく、もっと古い記憶が呼び覚まされているからではないか。

部屋にいながら、森に帰る。 秋田杉の精油は、そういうものだと思っている。
## 香りは、部屋に「意図」を与える
アートを一枚飾ると、部屋に「意図」が生まれる。
香りとアートは、どちらも部屋を「自分の場所」に変える力を持っている。ちがいは、香りの方が言葉より速く、理屈より深く、体に届くことだ。
その一枚を選んだ理由、その場所に決めた感覚。言葉にはならなくても、「自分がここに住んでいる」という静かな宣言のようなものが、壁に宿るから。
香りも、同じことをする。ただしもっと手前で、気づかれないままに。
部屋に戻った瞬間、体が先に反応、判断している。ここは安心できる場所か、そうでないか。
その判断を、嗅覚は言葉より速く、理屈より深く、下している。目が「整った部屋」を認識するより先に、鼻が「帰ってきた」と知っている。
忙しい一日の終わりに、スイッチを切るように香りを置く。それだけで、部屋が「戻ってくる場所」になる。
アートが視覚で部屋を整えるように、香りは嗅覚で部屋を「自分の場所」に戻すのだと思う。
## 秋田の山から届いた、石と香り
話が少し、変わる。
この春、Blue Coverに新しい商品が加わった。
秋田県で採石を営む堀江建材が手がけた、玄武岩のアロマストーンと、秋田杉の精油のセット。「GENBU」と名付けられたアロマストーンは、秋田の山で採れた天然の玄武岩を職人が丁寧に加工したものだ。ガラス容器に収められた石に精油を数滴垂らすだけで、火も電気も使わず、香りがゆっくりと広がる。
精油「あきたすぎ」は、大館市近隣の山で育った秋田杉の葉を丁寧に採取し、地元の湧き水で時間をかけて蒸留したもの。αピネンを含む香りは、森林浴と同じ成分を持つ。森の奥行きを閉じ込めたような、深く広がる香りだ。

実際にこのアロマストーンを使ってみた。石に精油を垂らし、しばらくそのそばにいた。
気づいたら何も考えていなかった。香りを楽しもうとしていたわけでも、効果を感じようとしていたわけでもなく、ただそこにいた。
そういう時間が静かにそこにあった。
天然の玄武岩だから、ひとつひとつ形が違う。同じものは、どこにもない。世界にひとつの石が、あなたの部屋に来る。
Blue Coverがこの商品を扱う理由は、ひとつだ。アートが部屋を「自分の聖域」に変えるように、香りもまた、空間の質を静かに変えるものだと考えているから。
## 役に立つかどうかより先に
香りを置くことは、自分のための時間をつくることかもしれない。
アートも香りも、役に立つかどうかより先に、「そこにあるだけでいい」と思えるものがある。説明できないけれど、なくなると寂しいもの。理由はわからないけれど、あると落ち着くもの。
それが、部屋を「自分の場所」に変えていく。
静かな部屋に、香りを置く。
ただそれだけのことが、一日の終わりに、思いのほか深く、心に届く。
[商品情報]
GENBU アロマストーン × あきたすぎの精油セット アロマストーン(玄武岩・ガラス容器付き)× 1、精油「あきたすぎ」5ml × 1
製造:堀江建材株式会社(秋田県大館市)
販売価格:5,500円(税込) → Blue Cover「Art Products & Goods」にて販売中
※お好みの強さに合わせて、滴数を調整してお使いください。
このブログ「アートとくらす」は、アート作品を扱うBlue Coverによる連載です。
過去の連載(#1〜)はこちらからご覧ください。



