夕方、部屋が、少しずつ暗くなっていきます。

でも、まだ電気をつけない時間が、私はわりと好きです。

昼でもなく、夜でもない。

どちらにも、まだ属していない時間。

六月のいまは、日が長くて、その時間が、ゆっくりとやってきます。

仕事を終えても、外はまだ、ほんのり明るい。

夜になりきるまでに、少しだけ、間があります。


つい、すぐに夜にしてしまう

ふだんは、その時間を、あっというまに飛ばしてしまいます。

帰って、すぐに電気をつける。

部屋を明るくして、次のことを始める。

夕食、片づけ、明日の準備。

昼の続きから、夜の用事へ。

そのあいだにあるはずの短い時間は、いつのまにか、なかったことになっています。


何もしない時間ではなく、移り変わりを見る時間

あるとき、電気をつけるのを、少しだけ遅らせてみました。

暗くなっていく部屋に、そのまま座っている。

何かをするわけではありません。

ただ、光が、少しずつ引いていくのを見ている。

壁の色が、ゆっくりと沈んでいく。

不思議なことに、それは、休んでいるのとも、少し違いました。

昼と夜のあいだの時間は、何かをする時間でも、休む時間でもなく、

ただ一日が静かに移り変わっていくのを、見ているための時間なのだと思います。


小さな銅版画が、その時間に似ていた

そんな時間のことを考えていたとき、ひとつの作品を思い出しました。

Blue Coverで扱っている、そめや まゆみさんの「Beginning of the night」という銅版画です。

タイトルは、「夜のはじまり」。

ちょうど、昼が終わって、夜になっていく、あの時間のことです。

手のひらにのるくらい、十センチ四方の、小さな一枚。

画面は、青と緑に、しずかに沈んでいきます。

その青のなかに、ぽつんと、あたたかなオレンジ色の生きものが、ひとつ。

夜になる前の、最後の光のようにも見えます。

それが何なのか、どこの景色なのかは、はっきりとは描かれていません。

でも、たぶん、そこは大事ではないのだと思います。

ただ、一日が暮れていく時間の、あの静けさが、小さな紙のなかにある。

銅版画は、銅の板を少しずつ加工して、インクをのせ、一枚ずつ紙に刷りとっていく技法です。

時間のかかる、静かな手仕事。

そめやさんは、スペインのカダケス国際ミニプリント展でグランプリを受け、

翌年、カタルーニャ国立図書館に作品が収められた作家です。

派手さはないけれど、長く、そばに置いておきたくなる。

夜になる前の、あの静かな時間に、そっと寄り添ってくれるような一枚です。


一日を、すぐに終わらせない

夜になる前に、ほんの少しだけ、間を置く。

電気をつけるのを、数分だけ、遅らせてみる。

その数分のあいだに、一日が、ゆっくりと形を変えていきます。

慌ただしく昼から夜へ飛び移るのではなく、その移り変わりを、ただ、見ている。

それだけで、一日の終わりが、少しだけ、やわらかくなる気がします。

夜になる前の、いちばん静かな時間に。

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[作品情報]

Beginning of the night そめや まゆみ

カテゴリー:版画 / エディション:20

作品サイズ:10×10cm / 額装サイズ:25cm角

素材・技法:銅版画(ハーネミューレ紙)

価格:24,100円(額装済み・税込) → Blue Cover にて販売中

このブログ「アートとくらす」は、アート作品を扱う Blue Cover(https://bluecover.shop/)による連載です。

過去の連載(#1〜)はこちらからご覧いただけます。

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