毎朝、カメラを持って、出かける人 ── 一枚の写真の、向こう側にあるもの #17
部屋に、小さな鳥の写真が一枚、飾ってあります。
枝にとまった、メジロ。
その前に立つと、ふと、写真の向こう側のことを思うことがあります。
この一枚を撮るために、この人は、どれだけの朝を、重ねてきたのだろう、と。
毎朝、カメラを持って、出かける人
この写真を撮ったのは、中村年孝さんという写真家です。
大学で写真を学び、独立してからは、広告や宣伝の仕事を中心にしてきた人。
ある朝、仕事場の向かいの神社で、見たことのない鳥に出会いました。
その模様や仕草に惹かれて、夢中でカメラを向けた。
それが、はじまりでした。
それから、毎朝、カメラを持って出かけるようになります。
降りしきる雨の日も。
雪が、静かに積もる朝も。
強い日差しの、夏の日も。
鳥は、人の都合を気にしません。
風を読み、木々を渡り、変わらないリズムで、生きている。
何度も通った場所でも、また、新しい出会いがある。
毎朝、というのは、思っているより、ずっと長い時間です。
この静かな一枚の向こうには、重ねてきた朝の数だけ、時間が流れています。
すぐそばに、見ていなかったもの
中村さんは、こう書いています。
遠くへ行かなくても、都心の片隅、見慣れた公園や街角にも、驚くほど美しい自然が息づいている、と。
これは、私たちの毎日にも、そのまま当てはまる気がします。
たとえば、毎朝の通勤路。
いつもと同じ道を、同じ時間に歩いている。
急いでいて、足元も、街路樹も、空も、たいていは見ていません。
代わり映えのしない道だ、と思っている。
でも、ほんの少しだけ、目を向けてみる。
街路樹のあいだで、小さな鳥が鳴いているかもしれない。
昨日は気づかなかった花が、咲いているかもしれない。
見慣れた景色が、一変する。
中村さんが毎朝のなかで見つけてきたのは、たぶん、そういうことです。
その一枚を、暮らしのそばに置く
中村さんの写真は、アクリルフォトという形になっています。
ゲタがついていて、壁から少しだけ浮かせて掛ける。
透明なアクリルを、光が通る。
すぐそばの自然をうつした、小さな窓を、壁にひとつ持つような一枚です。
たとえば、この、梅にとまったメジロの写真。

淡いピンクの花のあいだ、細い枝に、雨の雫が点々と光っています。
その雫を見ていると、雨の朝にも出かけた、あの「毎朝」を、思い出します。
一枚の写真を暮らしのそばに置くということは、作り手が毎朝重ねてきた時間と、
その人が見つけた「すぐそばの美しさ」を、自分の毎日に迎え入れるということなのだと思います。
そして、その一枚は、毎日、こう問いかけてくるのかもしれません。
あなたのすぐそばにも、まだ見ていない美しさが、あるのではないですか、と。
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[作品情報]
#240222_JapaneseWhite-eyeOnPlumBlossoms_092 中村 年孝
カテゴリー:写真 / エディション:オープンエディション
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