『おとこ の 和菓子』みちくさ〝あん〟ぎゃ #8 あんみつ
全国的に書店激減の中、最寄りの駅ビルでは健在。暮らす地域に書店のある幸福は何物にも代えがたい。この年齢になるとなおさら強く実感する。和菓子屋と本屋がある幸福こそ。
先日もいつものように書棚をめぐり、何気ない出会いを楽しむ中、新刊の新書コーナーで気になるタイトルを見つけ、手に取ってしまった。「なぜハーバードは虎屋に学ぶのか」。

なぜハーバードは虎屋に学ぶのか
ハーバード大学経営大学院の学生たちは「ケースメソッド」という教授法で独自の教材を基にひたすら議論するという。そして長年の人気教材は日本企業の事例研究なのだとあった。
中でもコーエン教授が日本の老舗和菓子メーカー『虎屋』について取材した教材が大好評なのだとも。創業から五百年、十七代の先達と現在の十八代店主の継承と挑戦の歴史は先生や学生をたちを大いに魅了しているという。
さらに教員研修の一環で来日した先生たちが虎屋赤坂本社で土産に買って帰った「キャンディー」と呼ぶ商品も大好評だったとか。その商品とは、あの定番の「小型羊羹」だった。
七月末、虎屋の和菓子『雲の峯』を思いがけず、手土産として戴いた。七月の初め、虎屋赤坂本店の三階・虎屋菓寮でスルーしてしまった「季節の和菓子」だった。なんともうれしい戴き物だが、いささか面映ゆい気持ちで帰宅し、とりあえず冷蔵庫へ。翌朝、おもむろに取り出し、同居人と二人、涼やかな絵柄の箱を開けてみると、中からもなんとも爽やかで、鮮やかで、印象深い一品が登場。「雲の峯」は夏の季語、入道雲こと積乱雲のこととある。

切り分けるのが惜しいほどの〝雲の峯〟。一切れ、二切れ。まさに澄んだ青空に白く湧き立つ入道雲(積乱雲)の見事な〝寒天アート〟。懐かしい子ども時代の思い出と共に戴いた。
温暖化による激しい暴風雨の激増、雲の峯も度を超すと〝モンスター積乱雲〟となり、実に恐ろしい脅威となる。先日の千葉県の猛烈な豪雨災禍も記憶に新しい。夏が変わったのだ。
さて、八月。〝夏本番〟
やっぱり八月は「あんみつ」の季節だ!【個人の感想】。もちろん、みつまめも好い。が、餡好きにはやっぱり、迷わず「あんみつ」となる。
門前仲町で 〝あんみつ脚〟 その⑴
八月初め。東京メトロ東西線の門前仲町で下り、交差点から清澄方向の二つ目角を右折。深川不動に向かう通りだが、再開発も進む。インバウンド客が巨大スーツケースを引きながら擦れ違う。そんな門仲裏通り。ごく静かな一画に、五十数年の甘味処「いり江」はある。

久しぶりの深川、門仲。そして「あんみつ」の名店『いり江』だが、先ず店先の神輿連合渡御ポスターが目に入る。そうか今年は三年目か!富岡八幡宮・深川八幡祭りの熱い記憶。
もう三十年ほど前になる。憧れの町神輿を担いだことがあった。地元育ちの先輩の熱い勧めで東陽四丁目の半纏(はんてん)を借り、江戸期から続く54基の町神輿を朝から夕刻まで担ぎに担いだ懐かしい記憶。担ぎ手は常に数十人、しかし途中途中で神輿の押し上げ、突き上げパフォーマンスまである丸一日の力仕事だ。その数倍の担ぎ手が無ければとても続かない。総勢三万人とも聞く。華の永代大橋渡御など終日担ぎ通し、夕方ようやく担ぎ終える。
その日は八月半ばの快晴猛暑、水かけ祭りとも言われる消防の放水や沿道からのバケツの水掛けで全身ずぶ濡れながらも、これが何と心地よかったことか。ふらふらで何とか町内に戻り、手締めのシャンシャンシャン。そして待ちかねた乾杯となる。飲酒で担ぐなどは〝ご法度〟。酔いの回った身体では大事故にもなりかねない。心身とも疲労困憊の中、「にわか深川っ子」の身だったが、チャキチャキ深川っ子の粋に触れた実に思い出深い一日となった。
今年は三年ぶりの深川八幡祭りの連合渡御〟か、、だが、あの先輩はもういないのだった。
そんな思い出にしばし浸りながら、格子戸を引く。ここはきしめんも評判だ。夏は冷たい〝ごまきしめん(1080円)〟も人気だが、今日は温かいきしめんをオーダー。具沢山だ。お揚げやかまぼこの他、椎茸、ウズラの卵、ホウレンソウとなかなかのきしめんだった。

そしてあんみつとなる。が、迷う!! あんみつと言っても、なんとも多種多彩なのだ。 結局、栗小倉あんみつ(1080円)に落ちつく。黒蜜と白蜜を問われ、ここは黒蜜で、と。
下町の裏通り、目立たない佇まいの中で戴く老舗の逸品。大ぶりの剥き栗がゴロゴロゴロ!
そこに黒蜜もタラーり、たらたら。もちろん甘いが、それがイイ。きしめんとあんみつ。
この蒸し暑さにこの甘辛の絶妙の組み合わせ、なんと言えばいいか。言葉など無くてイイ。
赤坂で あんみつ脚 その⑵ 百三十年の老舗の味
かつて、赤坂見附のオフィスによく通っていて、山王日枝神社へ詣でる際にときどき前を通ることがあり、少し気になっていた店だった。赤坂のメイン、一ツ木通りに面しながらも、まったく目立たない佇まい。周囲には珍しい木造店舗、あんみつの名店赤坂「相模屋」だ。

八月初旬、赤坂の打ち合わせもトントンと済み、そうだ!と思い立って店先に立った。
先客が一人いたが、ちょうど帰り支度中。狭い店先に入り込み、ショーケースを見回す。
完成形のあんみつは一個だけ。税込み@600円とある。他には棒状の寒天やくずもちだけだ。だが思わず、のどがゴクリ! 店内の空気がそうさせたのか。伝統の重みか。明治二十八年の創業。基本、持ち帰りスタイルの店で、厳選された天草100%使用の寒天にこだわるあんみつ材料専門店だ。一貫して。それもまた清々しいなと、これも空気がそう言わせるのか。

さてさてと、二・三人用なる「あんみつセット」(税込@1550円)を購入。急ぎ帰宅した。
翌朝、冷蔵庫から取り出し(同居人と二人には結構な量だ)、まず棒状の寒天を切り分け、大き目の器に盛り、特製の餡と赤えんどう豆&求肥を乗せ、プラ容器の特製黒蜜を掛けて、ようやく完成!! ふう~っ、けっこう手間がかかる。その分、それぞれ吟味された材料だけに、、たしかに、これは「ちがう」逸品だ。なにより天草100%寒天の比類なき味わい。ほど良い硬さとのどごし。これはクセになる。こしあんと豆も好い。唯一、求肥もありだが、ココにはドライもので何かフルーツがあれば(杏、みかん、、)。そうだ、それは自前でか。また機会をみて行きたい店。次は数少なく用意の「完成形」のあんみつ(税込600円)だ!
上野公園前で あんみつ脚 その⑶

八月上旬の平日昼過ぎ、日本橋の用事が済み、そうだ、今日こそは!と思い立って、
御徒町へ。久しぶりのアメ横を流しながら、さすがにこのカンカン照り、そう混雑はしてないがやはりインバウンド客が目立つ。途中から大通りに出て上野・四丁目交差点に至る。
上野公園前のあんみつ「みはし」として知られる老舗は目の前。久しぶり。細長で町家風だが明るい店内。ラッキー、運よくスムーズに入れたが、後はもう行列だ。今日もツイてるゾ!
そうして今日こそは『杏あんみつ』だ。これが大好物。ようやく落ち着いて周りを見回す。ほぼ新旧のお嬢さんばかりか。季節柄か、かき氷派とあんみつ派と、二分しているようだ。
インバウンド客もチラホラ。ここは迷わず『あんみつ』、しかも大好物のアンズで行こう。
ほどなくして、お待ちかね!『杏あんみつ』のお出ましだ。干し杏がたっぷり四個もあり、ミカンに求肥に、赤インゲン豆。その上にどーん!とこし餡力士が角形の重量級で登場。

先ず寒天がイイ。伊豆七島産のこだわり天草だ。続いて杏と十勝産の赤いんげん豆の調和。仕上げは超重量級のこし餡の迫力!卓上の華だ。餡好きにはたまらない。しっかり堪能した。
上野公園前の都内有数のあんみつ店。気取らない店構えもまた好い。次は「豆かん」だ!
曇天の八月十六日(日) 三年ぶりの深川っ子の熱気
この七、八月、すさまじい猛暑、酷暑、悪夢の大地震、続けざまの変質台風、そして豪雨。自然災害の猛威が荒れ狂い、大被害をもたらし、いまも各地に散々な爪痕を残している。
八月十六日㈰午前十一時、心から復旧復興を祈りながら、東西線の門前仲町駅に向かった。
この日は深川八幡祭り(8月12-16日)のトリ、そして華。五十四基の町神輿渡御の日だ。

当日は朝から曇り空。もちろん、担ぎ手にとって曇天は悪くない。が、蒸し暑さも半端ない。
アタマからビショ濡れになりながら、消防ホースから、また各町内に設えられた水槽からの柄杓や風呂桶の水かけは本当に恵みの雨。恵みの水となる。〝水かけ祭り〟の真骨頂だ。
こうして担ぎ手と観衆が一体となる神輿行列の熱気が3年ぶりの深川っ子の心意気を示す。

先頭は今は何処辺り?などと自問しながら、神輿に追い着き、追い越し、また追い越され、こうして3年ぶりの水かけ祭りを存分に楽しんだ。さっきから先輩も来られていたようだ。
耳元で、イイね!いいね、愉しいね! そんな声が聞こえた気がした。行く夏の一日だった。
偶然、新聞のコラムで、くず餅の船橋屋の看板文字が『宮本武蔵』で知られる作家吉川英治の作だと知る。と、急に、冷やしたくず餅、わらび餅が食べたくなった。暑さも少しづつ和らいで来ているからか。以前いくつかのグループに、最近は「和菓子旅」をしているんだと話した際、女性グループはなぜか?わらび餅、くず餅を挙げる。それを取り上げてほしいと。
冷やして、、、 それはなんとなく、、 次の楽しみにもなって来た。
(つづく)
庵 日和(いおり びより)
編集者 裏まち裏通り旅人(りょにん)
北国の小さな城下町生まれ。
ラジオ・テレビ、WEBサイト等で
企画・制作・広報PRを手掛ける。
歩く・見る・浸かる・食べるを趣味
に、小さな物語を採集、編集。



